「はい!今日の道徳の時間は、1番大切な人へ手紙を書きましょう!」


「えーだれがいいかなあ?」
「わたし、ママに書く!」
「じゃあ わたしも!!」
「おまえら だっせーな!ここは父さんだろ父さん!」
「おれもおれも!父ちゃんだろフツー!」
「えー?男子うざーい」
「はあ!??うざいのは女子らだろ?ぎゃはははは!」
「...私はパパに書くよ?」
「そっか、ぼくもお父さんに書くよ いつも かぞくのために働いてくれてるからね」


「天田くんは、どっちに書くの?」

 

 




拝啓、明彦さん

 




「えっ?」
「お母さん?お父さん?...いひょうをついて、お祖父さんとか?」

 




まさか僕に話題が回ってくるとは思わなかった

 




「えっ えーっと...その...」
「あっ!お姉さんとかだ!」









「お お兄さんだよ!兄さん!」
「へ-!天田くん、お兄さんいるんだあ!」
「えっ 天田くんお兄ちゃんいるの?」

 

 

 

 





う うわ  なんか人が増えてきちゃった
...こーゆー話題は苦手なんだけどなあ

 

 

 

 

 

 





「お兄ちゃんって、カッコイイの?」

 




あ さきちゃんが目輝かせてる...みほちゃんも、ななみちゃんもだ




(なんか、期待、されてる?)

 

 





「カッコイイよ!えっとね、勉強もできて運動もできて、何でもできるんだよ!」
「わあ!え、なんて名前なの?」




 

 

 


みんなの目が
一層 輝く

 




「あ 明彦」
「アキヒコさん っていうんだー!アキヒコさん、すっごくカッコイイんだろうなあ!」
「ま まあね!」

 





(真田さん!褒められてますよ!)

 




僕は心の中で、真田さんに報告する




な なんか、まるで自分のことみたいに嬉しいな!

 





「ななみ、アキヒコさんに会いたいなー!」



ん?



「あ!わたしもわたしも!」
「えー?みほちゃんもー?」
「今のハナシ聞いてたら、みほ、アキヒコさんのカノジョになりたくなっちゃったの!!」
「ダメーーー!アキヒコさんは、わたしとケッコンするんだし!」



...え?



真田さん...モテてる...!



(話をしただけなのに!!!)



さすが真田さんだ!



小学生にまでモテるなんて!!
ここまでの人は なかなかいないよね!
うんうん さすが真田さん





でも






ちくり






(なんか、フクザツ)





なんか、むかむか、する





(みほちゃんも、ななみちゃんも、)
(そんなに深く考えてないわけだし!)





(だから)





(僕こそ、深く考えるな)





冷静に





冷静になれ!





「...聞いてる?天田くん」
「え?」
「だーかーら!わたしたちを、アキヒコさんに会わせてくれないかなあ?カノジョにする人を、ななみたちの中から えらんでもらいたいの!」





ぷつん






「やだ」
「...え?」





(え? え?)





僕 いま何て言った?





「あ 天田くん?えっと」
「..あ その...」





冷静になれ僕!!!!!





(だめだ 頭が パニックに)





「せんせー!女子がうるさいでーす!」
「はいはい!皆、席に戻ってー!ちゃんと一人で書きなさーい!」
「はーい!!」





ふぅ...



なんとか切り抜けた..
いいタイミングじゃん、三村くん





(...焦ったなあ)

 



まさか
あんな些細なことで
パニックになるなんてさ





ななみちゃん達から 真田さんが彼女候補を選ぶなんて、
ありえない話なのに





だって、小学生だし
真田さん、高校生だし
年の差だって、6も離れてるし
ななみちゃん達なんて、まだ子供だし
真田さんは、大人だし

 







(ーーー僕も、同じだ)

 







僕も、ななみちゃん達と、一緒





だから、ななみちゃん達を真田さんに会わせて、
彼女とか結婚の話をして、
真田さんが、優しく受け流してるところを見たら







そしたら、そしたらきっと







(僕も、同じ扱い、される、から)







(だから、嫌だったんだ)







年も、背丈も、一緒





全部、ななみちゃん達と、一緒






真田さんにとって、"子供"なのも、一緒

 







「天田くん?鉛筆が止まってるわよ?」
「あ 先生..」
「どうしたのかな?手紙の相手が決まらないとかかしら?」
「いや!書く相手は決まってるんですが...内容が決まらなくて」
「内容か...そんなに気負わなくていいのに!相手の人に感謝の気持ちを込めて書けばいいのよ」





真田さんへの、感謝?




「...違うんです」
「え?」
「僕は、感謝を書きたいんじゃないんです」





そう
僕は、今ここで、
真田さんに感謝したいわけじゃないんだ



でも



だからといって
何をしたいのか、分からない






「...でも、何を書けば、いいのか、分からなくて」
「うーん...ならさ!"今まで"を書くのが難しいのなら、"これから"を書けばいいんじゃないかしら?」
「...?」
「そうねえ...決意とかはどう?きっと、未来に向かう天田くんが感じられて、相手は微笑ましく思うと先生は予想します!」

 




"決意"





その言葉を聞いた途端、
僕は鉛筆を走らせていた


 


「...書けそうね」
「ハイ!ありがとうございます!」

 




よかったわ、と微笑えんで去っていく先生に
心の中で、たくさん感謝しながら、



僕は 手紙を 書く





『拝啓、真田さん』


 




ふと考えが よぎる






(みんなの前で"明彦"って言っちゃったから)



(みんなに見られたら「"真田さん"ってだれー?」って聞かれると思うから)



(だから、いいよね)





みんなのせい という理由にして、
決して 僕が呼んでみたかったわけじゃないと正当化して、





僕は題名を消しゴムで消して書き直す






『拝啓、明彦さん』



『僕は、まだまだ子供です』



『背だって小さいし、勉強や運動はできる方だと思うけど、真田さんほどじゃありません』



『年だって、やっと2桁になりました』



『今まで、僕は"大人びてる"と思っていたけど、やっぱり子供だと今日、実感しました』



『僕は、まだまだ、子供です』



『でも、』



『僕は、必ず、真田さんに追いつきます!』



『僕は、大人になります!』



『だから、待っていてください!』



『あと、』



『僕は、ずっと、真田さんの、味方です』



『さきちゃんから借りた少女マンガみたいなセリフで言うと、』



『たとえ世界が敵になったとしても、僕だけは味方です』



『だから、安心してくださいね!』





ふと鉛筆を止めて、
深呼吸して、また書き出す





『そのかわり、』





『10年たっても、20年たっても、』





『僕は、真田さんを、離しませんから』




(だから)





『覚悟してくださいね!』














 


「なに笑ってるんですか真田さん!」
「...ん?笑ってたか?」
「それはもう、僕に向けて欲しいぐらいの笑顔で」
「いやな、随分懐かしい物を見つけてな」
「何ですか?僕にも見せ...うわっ!」
「思い出したか?...懐かしいだろ」
「これ...10年前のですよね...うわ、恥ずかしい」
「...いや、俺は嬉しかったぞ?」
「ほっ 本当ですか!!!!!!!????」
「冗談だ」
「......」



「しかし、本当に長い付き合いになるとはな」
「言ったでしょう?"離しません"って」
「本当にな」
「分かってるなら早く僕のものになってくださいよ!」
「さて、そろそろ時間だな」
「...また、かわしましたね..まあいいですけど」
「美鶴は時間に厳しいんだ」
「桐条さんと久々に食事でしたっけ?」
「ああ、そうだ この前世話になったからな」
「かしいですね...楽しんできてください!」
「...」
「? なんですか?」
「いや、ただな..."離さない"と言ったのは誰だったかななと思ってな」
「!!」
「ついてくるか?」
「はい!」

 

 

 

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