寮が同じで、先輩と後輩

 

ただ、それだけだった  ハズ

 

なのに

 

「おい有里!海牛に行くぞ!」

 

 

牛丼≠私

 

 

「あ あの、真田先輩」
「今日は温泉卵をトッピングしようと...何だ?」
「昨日も、海牛行きましたよね?ついでに一昨日も」
「ああ、そうだな!何か問題でもあるか?」

 

 

問題なら、山ほどありますよ!先輩!

 

 

「私も その...一応、女子なんですけど!」
「それが何だ?」

 

ぶち

 

「...牛丼食べたくないです!!さよなら!」
「あっ おい!有里!」

 

そう行って、走り去る私

 

(なんだか悲劇のヒロインみたいだな)

 

そして
廊下をしばらく走って気付く

 

「...今日、部屋の鍵、忘れたんだった」

 

何と言うタイミングの悪さ!
どっちにしろ、時間つぶさなくちゃならないなんて!!

 

(ゲーセンでも寄ろうかな..)

 

切り替えの早い私は
財布をチェックする

 

Oh My GOD!

 

金欠でした!!!!!

 

(丁度...牛丼が食べれる分しか無いなんて)

 

本当に最悪のタイミング

 

(教室で時間つぶそ...)

 

途方に暮れながら教室に向かう

 

廊下の窓からさす夕焼けが
余計に私の心を暗くさせる

 

ふと、思い出す

 

真田先輩のこと

 

(傷つけたかな...)


(でも、あれは先輩が悪いんだし!)


(...先輩鈍いから、私が怒った理由なんて気付いてないよね)


(じゃあ、先輩からしたら、私、逆ギレ!?)


(これは謝らなきゃダメかも...)

 

ふと、夕焼けの光が
私の目に直撃する

 

「..眩しい...」

 

(もう、いいや)

 

(今日は、疲れた)

 

そう思い、教室のドアを開ける

 

「あれ?ハム子」
「あ キタロー...何してんの?」

 

同じクラスで同じ寮の通称・キタロー
私が一方的に親友と思っている
それぐらい、仲良い

 

でも、こいつは厄介

 

「んー…西脇といた」

 

全くの、プレイボーイ

 

「またキミ、遊んでたの?いつか刺されるよー」
「ははっ」

 

そう笑う姿は、カッコイイというかカワイイというか...


流石、プレイボーイだと思う

 

「だってさ、昨日は...誰だっけ、伏見さん?だっけ...あの子と一緒に帰ったよね?」
「まあね、そのまま家に直行」
「うわっ フシダラなやつ!」
「何とでも言えばいいよ」

 

でも、キタローと話してるの、飽きないんだよね
プレイボーイこその話術ってやつかな?

 

どっかの先輩とは大違い

 

「キミ、ゆかりまで手、出してるんでしょ?」
「あれは向こうからだよ」
「風花は?」
「それも向こうから」
「美鶴先輩にもってウワサが...」
「それは、ちょっとアプローチしたかな」
「...ってことは、寮内だけでも修羅場発生しちゃうじゃん!」
「大丈夫、そのへん上手いから」
「したたかだねー」
「それ褒めてるよ?」

 

二人で笑いあう

 

「ねえ、どっか行かない?」
「私は軽い女じゃありません」
「そういうのじゃなくて、純粋に話したいんだって」

 

苦笑する彼は、嘘はつかない
...ま、私も冗談で言ったんだけど

 

「えー私、金欠だよ?」
「それは俺も一緒 シャガールとか、さりげなく高くて無理」
「私、牛丼しか食べれないぐらい!」
「あ   俺もそのぐらい」
「わ すごい!財布の以心伝心だ!」
「じゃあ 行く?海牛」

 

とくり

 

さっき、断った誘い

 

先輩の顔が頭によぎる

 

先輩と話すると、
まるで男友達のように扱われて、

 

 

なぜか  少し辛い

 

 

キタローは
友達だけど、ちゃんと女子として扱ってくれるから

 

いいよね?
少しぐらい、キタローのプレイボーイ話術に癒されても

 

 

返事をしようとした、その時

 

 

「有里!海牛に行くのを断ったのは誰だ!」

 

 

聞き覚えのある声

 

無神経が大半
だけど
凛としていて、どこか優しい

 

 

「先輩...」
「先に約束してたのは俺だ!分かったかキタロー!」
「はいはい...って真田先輩まで そう呼ぶんですか....」
「行くぞ有里」
「ちょっと..!」

 

掴まれた腕を振りほどこうとするが、
やはり そこは男の人で

 

私は大人しく連れてかれる事にした

 

と ふいに

 

「真田せんぱーい!」
「なんだ?」
「俺の親友、少しは女の子として見てあげてくださいねー!」
「?」

 


「!!!」

 


(お見通し ってわけ!!?)

 


急激に顔が熱くなる中、キタローと目が合う

 

ニヤリと笑うプレイボーイ

 

(全部、分かってて、私を海牛に誘ったんだ..!)

 

「おまえも少しは素直になれよ」

 

そう微笑んで、手をふる彼


(やっぱり、厄介)

 


少し不快そうに私達を見て

 

「もういいか?...行くぞ」

 

 

少しイライラしているのか、
歩く速度が早くて

 


追い付くのもやっとだけど
やっぱり先輩はそれに気付かなくて

 


学校を出た時には
私はもう、息が上がっていた

 


「す すまない有里、少し速かったか?」
「...お 遅い、ですよ、気付く、の」

 

息を整えながら、答える

 

「い  ったい...一体、何なんですか?」
「あ  その、な...いや、お前が いきなり怒るから、心配して だな」

 

(やっぱり逆ギレしたと思われてる...)

 

ああ 私の予想通り

 

これは、もう、何を言っても無駄なんじゃ?
そんな考えがグルグル回る

 


『おまえも少しは素直になれよ』

 


キタローの言葉が浮かぶ

 


自分に、素直に

 


言いたい事、言う

 

 

「部長、私は、女です」
「ああ、知っているぞ」

 

きょとんと答える先輩に無性にイラっとしたが
言葉を続ける

 

「私は牛丼が好物なわけじゃない...むしろ、甘い物の方が好きです!」
「そ そうか」
「私が女だと分かっているなら、そういうの、気をきかせてください!」

 

 

熱くなっている私は
止まらなくて

 

 

違う違う  と否定してきた、
合っているであろう、部長にとっての私

 

 

 

「私は...牛丼じゃありません!!」

 

 

 

言ってしまった
自分で肯定してしまった

 

 

むなしくて、涙が出てくる

 

 

先輩にとって、私は牛丼

 

 

涙が、止まらない

 

 

「...それは違うぞ有里」
「え?」
「俺は、お前としか牛丼を食べない!」

 

 

牛丼=私が正解だったようです

 

 

涙が、余計、止まらない

 

 

「そうですか...やっぱり私は牛丼なんですね..」
「だから違うと言っているだろう!」
「どこが違うんですか!!?先輩にとって私は牛丼なのに変わりないじゃないですか!」

 

 

「だから!」

 

 

先輩が私の涙を乱暴に拭う

 

 

「一緒に牛丼を食べに行くのは有里とじゃないと駄目なんだ」
「.........は?」

 

意味の分からない言葉に、
乱暴に拭われてる目の周りが痛いのも忘れた

 

「余計分かりませんよ...」
「...物分かりの悪いやつだな」

 

真田先輩の眉間にシワが寄る
...眉間にシワ寄りたいのは私の方なんですけど

 

「一人で食べるよりも、お前と食べる牛丼は美味しいんだ!」
「...はあ」
「俺の好物は牛丼だ!だから有里と食べたいんだ!...何度も言わせるな」

 

 

は?

 

そこで照れる理由が全く分かりません

 

 

「それとな」

 

 

「俺はお前を、女として、見てるぞ」

 

 

 

 

「そっ それはどういう意味ですか!!!??」
「うるさい!どんな意味でもいいだろう!さっさと海牛に行くぞ!」
「...その後に小豆あらいにも連れて行ってくれませんか?」
「まあ いいだろう」
「あっ なんでそこで照れるんですか!」
「し 知らん!!」

 

 

さっきまでは
乗り気じゃなかった海牛も
今の言葉を聞いたら、楽しみになった!

 

 

このキッカケをくれた
厄介なプレイボーイの親友に感謝しながら、
私は真田先輩と一緒に商店街へ向かった

 

 

 

>ReTurn

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星影さまへの相互記念を一部改良しました